Category Archives: 疾患

腰椎分離症(lumbar spondylosis) 概念と疫学

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分離症 狭部

概念

腰椎後方要素の骨性連続が断たれた状態であり、ほとんどが関節突起間部(狭部)→図のボールペン先部分に起きる。高度のすべりには分離を伴っていることが多いため、同時に取り扱われることが多いが、まったく異なった概念である。

 

疫学
腰椎分離症は全人口の6-8%に発症し、日本人全体で約1000万人が腰椎分離症を有している。日本では12-13人に1人が分離症である。これに対して日本の腰痛患者は2800万人(厚生労働省)であり、成人4-5人に1人が腰痛である。

また、関東地方の腰椎晒し骨標本の調査では、分離の頻度は5.6%と報告され、米国でも同程度である。一方、腰痛患者のうち分離・分離すべり症の患者の割合は5.1%と一般人口における分離の割合と同程度である事実は、分離が成人腰痛の重大な危険因子ではない可能性を示唆すると成書『整形外科クルズス』にある。

日本には、腰痛患者2800万人のうち分離・分離すべり症を143万人が有しているが、必ずしも腰痛患者に特別なことでない可能性があることを知っておくべきである。

骨粗鬆症性の圧迫骨折治療に再生医療!?

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「背骨が骨折しているので、万能細胞を注射しておきますね。」そう言って骨折は注射一本で治療する時代が来るのかもしれない。これは手術が不要になり、外科医は廃業となりうることを意味する。

本日の新聞で新型万能細胞「STAP」のニュースが飛び込んできた。

新型万能細胞「STAP」とは 再生医療・創薬応用に期待 - 世界が興奮、米指導教授も称賛

http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/science/medical_issues/?id=6105483

  

昨今の再生医療は確実に進んでいて、我々整形外科医をおびやかしている訳だが、現実の医療として反映されるのはまだまだ先の印象である。

むしろ経皮的椎体形成術(BKP:Balloon Kyphoplasty)に使われている骨セメントがシリコンになりうるというニュースの方が現実的である。

http://www.carenet.com/news/general/carenet/37272

現在行われているBKPではポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)というアクリル樹脂を用いた骨セメントである。骨粗鬆症性椎圧迫骨折では全身の骨がもろいため、BKPを行っても隣接する椎骨に圧迫骨折を生じる二次骨折が問題である。骨折を治療しても、そのすぐ隣で骨折するいわば「いたちごっこ」の状況だ。

 

この強い剛性のPMMAに対して、海綿骨に近い生体力学的特性を有するシリコンにより二次骨折のリスクが軽減される可能性があるというのだ。脊椎外科医には骨粗鬆症治療に期待される報告である。

 

 

 

腰椎の手術で腰痛は残ることが多く、しびれも多くは残る!?

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昨今の脊椎手術を行った後に、痛みやしびれなどの問題が残存する『Failed Back』や『Failed Neck』は大きな課題である。腰椎術後疼痛症候群(FBSS:Failed Back Surgery Syndrome)は、アメリカにおいて頻度が高く、脊椎手術の適応・文化的背景などが発生に関与していると考えられている。慢性疼痛となったその病態には、神経損傷後疼痛・椎間板原性疼痛・筋由来の疼痛・心理環境因子などが複雑に絡み合っていることが多い。

厚生労働研究班の行ったインターネット調査では腰椎に手術後では約75%に腰部の痛みの残存をみとめ、約70%がしびれの残存をみとめることが明らかにされた。同様に頚椎手術においても高頻度に痛みが残存すことがわかってきている。

 

もちろん脊椎手術は、馬尾神経や神経根といった上肢症状や下肢痛に対して手術を行うことが主体である。腰痛・頸部痛や改善しないしびれを主な対象として手術することは少ない。しかし、術前にこういった説明を繰り返しても十分に理解を得られないことが、繰り返し手術を受け術後性腰痛症候群(MOB:multiply operated backまたはpostoperative lumbagoとか英語で言われている腰痛)と関連していると思われる。MOBは、術後も腰痛がスッキリしないなど症状の程度は様々であり、世界中に広く認められる腰痛であり、治療に抵抗する代表的な慢性痛の一つである。

何もしていないのに自然と背骨が骨折する!?

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「あー。背骨が骨折していますねぇ。腰の骨が骨折して潰れています。』と、身に覚えのないことを医者に言われるかもしれません。

また、長年悩んでいた腰痛の原因を、「実はあなたの背中の痛みは、背骨の骨折が原因だったのです」と宣告されるかも知れません。

これは、骨粗鬆症を基盤として生じた脊椎の骨折であり、『骨粗鬆症性圧迫骨折または圧迫骨折』と呼ばれます。骨粗鬆症になると、体全体の骨が弱くなり非常に軽微な外傷(たとえばくしゃみ)で圧迫骨折を起こしたり、全く外傷がないのに骨が折れることもあります。

高齢者の3人に2人は圧迫骨折があるとも言われます。まったく痛みがない骨折の方もいますし、痛みが強すぎて寝たきりになってしまう方もいます。圧迫骨折は、自然と骨折が固まって治ることが大多数ですが、なかには治療に難渋するケースや、手術が必要になる方もいます。

場合によっては、下肢が麻痺して動かなくなるような恐ろしい状況となることもありえます。

体の奥にある背骨は体表から観察しづらく、自然と骨折しているとは思わないものなのです。

大きいヘルニアが痛いわけじゃない

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「こんなに大きなヘルニアはなかなかありませんよ。ここの椎間板がでっぱって、後ろの神経を押しているでしょう。」と、医者に説明されるかもしれない。患者さんは驚き、MRIに映し出された巨大なネルニアを覗き込み眼球をまるくさせるだろう。

確かにMRIに映し出されたような巨大な腰椎椎間板ヘルニアでは、神経が圧迫する可能性は高くなる。

 

しかし、大きくても症状がないことすらありうる。なぜなら、 痛み生み出す神経根を圧迫していないからである。

「大きなヘルニアがあるのになんともない。」そんなこともありえるのである。

そして大きなヘルニアは、あれほど痛かったのにケロッと治る、ということがありうる。今までの激しい痛みが、ある日突然まったく症状がなくなり、痛くもかゆくもなく平気になるのである。

これは、大きいヘルニアほど後縦靭帯というバリアーを破り、脱出タイプ(sequestration)に移行して神経を圧迫しない状況になりやすい。 また、マクロファージのような貪食細胞を誘導してヘルニア塊の分解・吸収が進みやすいと考えられている。

事実として入院した手術前日にまったく痛みがなく、手術中止となった患者さんを何人か経験している。

やはり椎間板ヘルニアでは、ヘルニアの大きさより、いかに神経を圧迫していることが重要である。ヘルニアが大きいと説明されても、悲観する必要はないかもしれない。

小さいヘルニアが良いわけじゃない

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「ほらね、椎間板のここの部分、でっぱっているでしょう。」
「…どこです???」

MRIで腰椎椎間板ヘルニアを指摘されても、患者さんには医者の言っているヘルニアがさっぱりわからないことがある。

確かに小さいヘルニアの場合は、患者さんに画像上の正常とヘルニアの違いを理解することは困難である。
そのため、小さいヘルニアはMRI撮影をしても見逃されやすく放置されるケースが多い。

これに対して腰椎椎間板ヘルニアがないひとでは、ヘルニア同等の 少しの椎間板膨隆があったとしても、全く痛みを訴えないことがある。これは椎間板ヘルニアが突出する場所によって症状に大きな違いが生じてくるのである。

小さいヘルニアは、ピンポイントで神経を圧迫していて症状を引き起こす。このタイプは後縦靭帯の膜を破っていないため、なかなかマクロファージなどに吸収されない。

そのため、症状がなかなか改善せず、一年以上の保存治療してから最終的に手術に至るケースもある。

つまり小さいヘルニアだからといって安心できないし、 むしろ痛みが長期化してなかなか治らない可能性があるといえる。

腰の骨がひとつ多いですね…

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医者にこう言われて心配される方がたくさんいますが、心配いらないことが多いようである。
では、実際に腰の骨(腰椎)はいくつあるのか?

一般的には腰椎は第1腰椎~第5腰椎までの5個であるが、1個多かったり1個少ないことある。
これを腰仙移行椎という。いちばん下の腰椎が、仙椎に近い形をしている場合(腰椎の仙椎化)と、その逆にいちばん上の仙椎があたかも腰椎のような形をしている場合(仙椎の腰椎化)がある。

では背骨全体では骨はいくつあるのか?
脊柱は24個(頸椎7個、胸椎12個、腰椎5個)の椎骨と仙骨・尾骨からなる。
これらの発生過程で胸椎の肋骨が退化したり、仙骨が癒合しきれずに腰椎化したりして脊椎数の異常は生じる。

つまり実際の椎骨数に異常があるかは、全脊椎のレントゲンを撮って数えないとわからないのである。
717人が17胸腰椎(通常の12個の胸椎と5個の腰椎)を持っていて、26人が通常より多い18胸腰椎、5人が通常より少ない16胸腰椎だったという報告もある。
このデータによれば、10%弱の人には多かったり少なかったりするわけで、結構な頻度で腰椎の仙椎化と仙椎の腰椎化は一定の頻度で生じている。腰の骨が多い少ないに関する腰仙移行椎が病態と関連していることはもちろんある。しかし、腰痛のある人がレントゲンを撮った機会にたまたま発見されることが多く、症状と関連ないことの方が多いように感じる。